good reading, again

本の感想。たまに映画の感想も書くかも。

雪乃紗衣『レアリア 1』

レアリアI (新潮文庫)

レアリアI (新潮文庫)

長きに渡って戦いを繰り広げる「帝国」と「王朝」。「帝国」の政治的トップのひとりオレンディアに養育される少女ミレディアは、皇帝の世継ぎに名乗りを上げた後ろ盾なき皇子を支えるよう命じられ、帝都へと足を運ぶ。そこで彼女が目にしたのは、彼女にとって思い出深い一人の青年だった。オレンディアに拾われる以前の彼女とともに暮らし、四年前の王朝との戦争において彼女の仲間を死に至らしめた男、アキ。彼との再会、皇帝選のゆくえ、そして休戦条約の失効を一年後に控えた二国の思惑が重なりあい、事態は風雲急を告げていく……。

この物語はミレディアを中心として描かれており、その周辺に彼女の守護者たるレナートや凶暴な将軍ギィ、世継ぎの少年、そして彼女にとって大事な存在ながら仇敵でもあるアキが配されている。この男性キャラの百花繚乱ぶりはさすが女性向け小説出身の作家だといえよう。特にミレディアの直属部隊ただ一人の生き残りで、満身創痍ながらも彼女に忠実につき従う「ぽんこつ」レナート、バイオレンスさを発揮しながらもミレディアに対してはどこか優しさのある「死神」ギィといった登場人物は、ミレディアに感情移入する読者にとって大いに魅力のあるものと思えるはずだ。もっとも、ミレディアがこれほどまで彼らに愛されている理由がいまひとつ捉えにくいため、ラブコメ漫画を途中から読むような居心地の悪さを感じてしまう向きもあるだろう。

キャラクターの魅力はともかくとしても、本作にはファンタジー読者が違和感を覚えるだろうポイントが多く存在する。例えば序盤に飛ばされる駄洒落は中世ヨーロッパ風の舞台設定とそぐわないし、本作のシリアス調ともマッチしない。また世界設定との食い違いという点からみれば、比喩表現に用いられる科学用語も同じことがいえる。これでは、世界の構築にあたっての言葉選びがあまりに無頓着すぎると言わざるを得ない。

作品の構造はなかなか複層的なものになっており、過去の回想や多くの視点人物を用いることで、長きに渡る年代記の一部を垣間見ているような感想も抱ける。しかしそれと同時に、この複数視点の導入は読者の混乱をも招く。なかでも本作屈指の読みにくさを誇るのが、二、三文ごとに二者間で視点が交代するアクションシーンだ。テニスのラリーの応酬のような緊迫感ある構図を意図していたのだろうが、それが成功しているとはいいがたい。

そして結局のところ本作で描かれるのは、帝国の終焉を予感させる壮大な物語のはじまりでしかない。「これ一冊のみでは判断できない」というフレーズを使いたくもなるが、そう思った時点で第一巻としては失敗だ。文庫一冊あればイゼルローン要塞は攻略されるし、黄巾の乱だって鎮圧されるのだから。